男のかっこよさ|夫婦のための連載小説 #14

「早く、逃げないと」
均は棘が刺さって血が出る腕を押さえている。

「私たちの世界が
閉じちゃうって
どういうことですか?」
香織は、瞳見に聞く。

「バラのトンネルまで急ぎましょう。」
瞳見は香織の手を引いて走る。
均も後に続く。

瞳見が走りながら、香織の質問に答える。
「私たちが思ってる以上に、
夫婦の世界って不安定ってこと。
たまたま一緒にいる、ってくらい偶然のことで。
維持しようとしなかったら簡単に壊れちゃうのよ。
お互いのちょっとした行動でもね。」

「均くんが瞳見さんに
浮気しようとしたり、とかですね。」
香織が振り返ってチラッと顔を見る。

「そうじゃないよ、僕は、
高雄さんになりきってただけで、
瞳見さんは奥さんなわけだから、
浮気とかじゃないよね」
均が後ろから走りながら慌てて取り繕うが、
取り付く島は無い。

瞳見が振り返って均に言う。

「高雄は、
男性が
自分達の都合のいいように
かっこよくありたい、ていう
そういう人なのよ。」

「うーん」
均は言い返せず黙ってついていく。

棘に絡め取られたビーチソファが
強い力で捻じ曲げられ、バキバキと
音を立てて壊れている。

あんなものに巻き取られたら
おしまいだ、均は恐ろしくなった。

「女がいたら口説く、
それしか考えてないんだから。
均くんがなりたいかっこいい自分のイメージ、
そのものなんだよ。
そういうことですよね、瞳見さん」

なぜか香織が捲し立て怒る。

「そうだと思うけど、
香織さん言うようになったわね」

棘の蔓が激しくなり、均たちを追いかける。

棘のトンネルまで戻ってきた。

庭の出口につながる
棘のトンネルは、
もう閉じようとしている。
とても裸のような格好で
飛び込んだら無事ではいられない。

均はバスタオルをギュッと体に
巻きつけて
「これで幾分か、
マシになるような気がする。
中に入って押さえます。」

「えっ」
香織と瞳見はびっくりした顔で
止めようとしたが、
すでに遅く、
均は閉じつつある、トンネルの中へ
駆け足で飛び込んだ。

「ぎゃー、いてて」

均がトンネルに入る入り口あたりで
早速、棘のつるに絡め取られ、
あっけなく壁に貼り付けられてしまった。

プラスチックのベンチのように
バキバキに折られたりしなくてよかった、
と2人は眺めながら思っていた。

「棘も、ちょっと手加減してくれてるみたいね。」
と瞳見は苦笑い。

「いい気味だから、しばらくああしていてもらいましょう」
と香織も同意した。

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