棘の道|夫婦のための連載小説 #13

浮き輪の上から盛大にひっくり返った
均は、バシャーンと大きな音を立てて
プールに落ちた。

その直後、
一瞬で空が真っ黒い雲に覆われ
あたりが夜のように真っ暗になる。

ピカピカと稲光が横に走る。
龍が空からこちらの様子を
見ているような不気味さだ。

後ろのソファで寝そべっていた
カップルが飛び上がって、
何か叫びながら
こちらに走ってくる。

「危ないよ、逃げよう!早く逃げよう!」

2人が何か叫びながらプールサイドに駆け寄る。

女性が手を差し伸べて、香織を岸に手繰り寄せながら
声をかける

「あなたの勝ちよ。」
と瞳見は香織に微笑みかけた。

男性が慌てていう
「勝ってないよー、これはもう手遅れだったんだよ。どっちも負けちゃった
ってことなんじゃない?早く逃げないと、やばいよ」

男性はプールに飛び込んで泳ぐ、
この後なんて香織に言い訳をしたらと考えて
放心状態の均を抱き抱えた。

均は男を見て我に帰る
「え、高雄さん?どうして」

高雄は答える。
「多分、アウトだったのかも。」

高雄に抱き抱えられるように、
均はプールの岸に上がる。

夜のように真っ暗になってしまった
庭のプールに、雷鳴が轟く。

暗くなった庭が
稲光の瞬間その時だけ真っ白に輝く。

その度に、
庭の木々の影が大きくなっているような
気がして、均は目を擦った。

瞳見と香織が2人に走りよってきた。

「あ、えーと、どういうことかな。」
均はぼそっと言って2人を見た。

瞳見だと思っていた見知らぬ女性は香織で、
いつもと同じ香織の顔をしているのが瞳見である。

「目にみえるものだけを
信じちゃダメって、ことじゃない?」と
瞳見は自慢げに、嬉しそうに言った。

「均くんは、浮気しようとしたんだよ、
あのまま瞳見さんにキスしようとした訳だから」
と香織は均を睨みつけた。

「いやいや、違うでしょ。
香織さんにキスしようとしたんだから
2人は夫婦なんだから、問題ないでしょ。」
高雄が割って入ってフォロー。

均は何がなんだか、あっけに取られていたが
「痛っ」
均は、腕に何かが刺さり痛みで声を上げる。

「香織さんはやまっちゃダメよ」と高雄が慌てる
「えっ、私、まだ何にもしてませんよ」香織が慌てる。
「これからするつもりよね」と瞳見が笑う。

均の腕には、
バラの蔓がキツくまきついている。
「痛い痛い、なんだこれ?」

庭のバラがどんどんと
動物のように大きくなって均の背中まで迫っていた。

「バラが動いてる、」
均の腕に絡まるバラに香織が驚く。

「ちょっと眺めてないで、
とるの手伝ってよ、痛っ」

均は絡まるバラの蔓を剥がしている。
瞳見が手伝う。
腕が傷だらけで血が流れている。

庭のプール全体のバラがどんどんと、
周りからプールに向かって迫ってくる。
まるで彼らをここに閉じ込めようとするかのように。

「これ、どういうことなんですか?」
香織は後退りしながら、
瞳見に尋ねる。

「2人の世界が、
香織さん、
あなたの心に呼応して、
今閉じようとしている、
ってことだと思う。」
瞳見が答えた。

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