強い日差しとぬるいプール、
2人は、ゆらゆらと水面を漂う。
均が泳ぎながら
瞳見が乗る浮き輪を押す。
あっちへふらふら
こっちへふらふらと
行ったり来たりして
泳ぎながら
はしゃいでいる。
「疲れたでしょ、交代しようよ」
瞳見は振り返って
均に声をかけた。
「大丈夫、大丈夫」
均は答える。
「浮き輪も
気持ちいいよ、
じゃあ、
やっぱり一緒に乗ったら?」
二人でも十分に乗れそうな
大きな浮き輪なので
均が一緒に乗っても
問題なさそうだ。
浮き輪の上から瞳見が
手を差し伸べて、
均は浮き輪の上に勢いよく
登ろうとした。
大きな二人乗りの浮き輪。
均は瞳見の手を握りながら
もう片方の手を浮き輪に置き
グッと体重をかけて飛び上がった。
浮き輪はぐらっと大きく揺れたけれど
ひっくり返るほどでもなく、
均は腹から体を滑らせて、
倒れ込むように乗り込もうとした
瞳見は、足を投げ出して浮き輪に
座っていた体勢だった。
均をひっぱりあげた拍子に、
瞳見は浮き輪の上に寝転んでしまった。
その上に
均が滑って上がってきたので、
均は瞳見の上に覆い被さってしまった。
浮き輪はまだグラグラと揺れている。
「あっ」
瞳見が驚いたような声を出す。
2人の顔がすごく近付いている。
ここまで来たら
もう絶対に気づくはず、
香織はそう思った。
浮き輪の上に
抱き合うように2人が横たわる。
均は、自分の太ももから、
瞳見の体温を感じて
心拍数を上げていた。
目の前に、
均の瞳見の顔が迫る。
もうくっつきそうな距離で
均はめまいがした。
こういう時、
どうすれば、
いいんだろう、
と均は思っていた。
高雄なら、
夫婦だし、せっかくの機会だからと
キスくらいするかもしれない、
と考えていた。
瞳見なら、
鼻息の荒い夫に
さらっとどいてもらって
上手にかわすだろう、
と香織は思っていた。
この男は、
私のことを見ているようで
もしかしたら、
何も見ていないのかもしれない、
と、冷たい汗が流れた。
「ちょっと、
重たいよ・・・」
瞳見は、均の肩を押し返して
逃れようとしたが、
びくともしない。
こんなに、均が力持ちだとは
思っていなかった。
いつもと違う力強さを感じる。
やっぱりこの男は
均ではなく、
他人なのかもしれない、
香織は思い始めた。
そう思うほどに冷たい汗が増してくるが
体を動かそうとしても
浮き輪が安定しないので
モゾモゾとするだけで
抜け出せない。
「瞳見・・・」
と呟いて均は、
瞳見の目を見つめる。
「ごめん、
ちょっと
どいて欲しいんだけど」
と香織は
苦笑いをしながら、
均を押し返す。
均は、
高雄と瞳見は夫婦なのだから
このままキスをして、
自然だろうと思った。
こんなに気持ちのいい
素敵なプールで、
抱き合う夫婦なのだからと。
瞳見は照れているのかもしれない、
と均は考えていた。
均は、
焦る気持ちを抑えながら、
瞳見にキスをしようと
覆い被さった。
香織は、もはや諦めて目をつぶって
この悲しい出来事を受け入れるしかないのか、
と思た。
咄嗟に、
肩を押していた手を外して
均と自分との唇の間に挟むことができた。
メイクの時に、瞳見が塗ってくれた
ハンドクリームの香がする。
その匂いに救われながら、均をにらむ。
均は、
間に挟まった手に驚きながら、
目をぱちくりさせている。
そして
「え、香織!?」
と慌てふためいた顔で
体をのけ反らせ膝立ちしようとして
大きく浮き輪はバランスを崩す。
均はそのままプールに落っこちる。
香織はザマアミロと思いながら、
プールに落ちる均を見た。