立ち上がった瞳見は、
「泳ごうよ」
と均の手を取った。
「そうだね」
瞳の柔らかく暖かい
手の温もりが伝わる。
かがみこんだ瞳見の胸元に目をやり
ドキッとする。
こんなキラキラした
素敵で魅力的な女性と
昼のプールで遊んでいるなんて
こんな幸せな時間が
あるのだろうか、
と均は考えていた。
本当に、この女性は
自分のことを高雄だと、
自分の夫だと思って接しているのだろうか。
均の手を
自分から握ったこと
なんて最近あっただろうか
と香織は考えていた。
今日は自然に
にこやかな顔で、
均に話しかけるのも
いつの記憶か定かではない。
そして、
この男は本当に
私の一体どこを見ているのだろうか。
本当に、私に気がついてないのだろうか
と、驚くほど呆れるとともに、
不安が芽生えてくるのであった。
2人でプールの
ふちに腰掛け足先を入れる。
時間も早いプールは
まだ少し冷たくて
暑さでほてった体に気持ちがいい。
「冷たくて気持ちいいね」
香織はプールサイドに
大きな浮き輪が積み上げられているのを
見つけると
「浮き輪借りれるみたいだから
借りてくるね」
と浮き輪をとりに
プールサイドを歩いていた。
近くであまり
瞳見を直視できなかった
均は、浮き輪を取りに行く
瞳見にみとれていた。
プールサイドの
ビーチソファに
1組他の客がいたことを思い出した。
2人は本を読んでいたが、
本の上から、
瞳見を見ているようだった。
女性が何か
男性に言って、
男性の足をつねっている。
男性が瞳見のことを
見入ってしまったのかもしれない、
と均は思った。
瞳見が浮き輪を
持って戻ってきた。
「大きい浮き輪で
2人で乗れそうだよ。」
瞳見は弾んだ声。
はしゃいでいるようだ。
時々、どこか不満そうな
表情が見え、均も不安に思っていた。
自分でも今さながら、
どうしてプールになど誘ったのか。
しかし、今はこの素晴らしい
庭のプールと浮き輪のおかげで
瞳見が楽しそうで
良かったと均は思った。
「確かに大きいけど、
2人は無理なんじゃないかな」
均はプールの縁から立ち上がり、
浮き輪をプールに浮かべた。
瞳見は足をおそるおそる
浮き輪の中に入れて手繰り寄せる。
「ちょっと
浮き輪が大きすぎて
ここから乗るの、
難しいかも、落ちそう。」
ゆらゆらと
水面を揺れる浮き輪に
飛び乗るのは勇気が入りそうだ。
その様子を後ろで
見ていた均だった。
均は後ろからしゃがんで
瞳見を膝の裏から腕を入れ
お姫様抱っこの形で
瞳見を抱き抱えた。
「え、
ちょっと
恥ずかしいから
やめてよ
重たいよ。」
そう言いながらも
もう抱きかかえられているので
どうすることもできず、
恥ずかしがりながらも
そのまま、
浮き輪の中に、
座らせてもらう。
「結構、
力持ち
だったんだね」
と瞳見は恥ずかしそうに
均のことを見て笑った。
均も、
急に大胆なことを
してしまったかもしれない、
と顔を真っ赤にして
プールに飛び込んだ。
プールの水は
最初ひやりとしたが、
あたたかく、
体温と心拍の上がった2人を
冷ましてくれるほどでは
なさそうだ。
編集後記
ちゃぶ台で作業すると腰が痛いです。