バラの庭|夫婦のための連載小説 #07

プールのあるホテルに向けて
走っていくと、
車は都内とは思えない
緑豊かなエリアに入る。

車の窓に葉の影が落ちる、
森のような気持ちのいい道である。
道をぬけ開けると、
古いけれど、
雰囲気のある大きな建物が現れる。

駐車場に車を回す。
ホテルやレストランの利用者は
使用した金額に応じて、無料である。
都内の駐車場の高さに驚いた
均は良心的だなと思った。

日本庭園をぬける。
もちろん暑いのだけれど、
真夏の日差しが緑に遮られ、
また地面も土や草があるので
ひんやりとした風を、
木々の間から感じて涼しい。

こんな素敵なところが
あるんだなと思った。

その先に、
木々が茂って長いトンネルに
なっているところが見えてきた。

瞳見が言う。
「あのトンネルの向こうに、ガーデンプールがあるみたいね。」

キラキラと輝く水面が
トンネルの先の、木々の合間に
ゆらめいていた。

木々の生い茂る道に
アーチ型の支柱が組まれ
バラの蔓がびっしりと巻き付いている。
かなり長い距離の
生きたバラのトンネルだ。

美しいバラと
鋭い棘、
それなりに長く、
そして狭い
トンネル。

バラの棘にぶつからないように
均はヒヤリとして進む。

後ろからついてくる瞳見にも
「引っかかると危なそうだから
気をつけて」

と注意を促したが
特に返事はなかった。
後ろからついてきているかどうか
不安になるほどだった。

生きたバラのトンネルを抜けると
芝生と、バラなどの花壇、
落葉樹が植えられた
明るい庭に出る、
その庭の奥に、
低い柵に囲われた
プールが現れた。

水面がキラキラと夏の日差しに
煌めいている。

「綺麗だね」
瞳見は喜んでいるようだった。

プールを囲む低い鉄製の柵は古びていて
ところどころバラが巻き付いている。
時代がいつか止まってしまったような
不思議な雰囲気のある庭である。

庭の片隅に白いコンクリートで作られた小屋があり
シャワーや更衣室になっているようだった。
ドリンクを注文できるバーカウンターにも
なっているようだ。
カウンターにスタッフの影は見えない。

庭のプールにもまだ誰もいない、
と思っていたが、
どうやらすでに先客がいたようで、
反対岸の白いパラソルの下、
ビーチチェアに、夫婦と思しき
カップルが寝そべっていた。
顔はよくわからないが同い年くらいか。

「着替えよっか」
瞳見と高雄は、小屋の更衣室へと
向かった。

編集後記

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