「お金の流れが早すぎたのかもしれないねー。濁流に飲み込まれちゃったんだろうね」
ニュースを見ながら我孫子が何か言っている。
河合の耳にはまるで入らない。河合のスマホも鳴らない。
セコイヨキャピタルからの事前の連絡も何も無くこの報道である。
数日間の猶予はあったはずだ。
「今頃、お金預けてた人達が詰めかけて残りのスタッフも殺しちゃうかもね」
「いや、別に社長も殺されたわけじゃないでしょ」
喉が渇いて貼り付きそうだ。
早く発泡酒でいいから飲みたい。
「いやー、この金主達に殺されたっていっても過言じゃないんじゃない〜?つまり他人の金でパチンコ打つなってことよ」
我孫子の言うとおりだ。取り付け騒ぎで、何かしたら資産を押さえようと貸主達が詰めかけているに違いない。
その対応に追われ、金を借りる側、出資される側のことなどどうでもいいだろう。
待てよ。なんなら俺の会社にも大量の投資家達が、返済を求めて詰めかけている可能性がある。
まだ1円も振り込まれていないのに・・・。
「どしたの?河合くんも自殺しそうな顔してるけど?」
「え、そ、そうですか。いやあ。大変ですね。この人も」
我孫子は「変な河合くん」といいながら、ポテトチップスを結局グラムあたりの金額が安い方を選ぶと、海外の珍しいお菓子群とコーラとあわせてカゴに入れてレジへと並んだ。
河合は発泡酒1本だけで「俺はこれだけで。」と答えた。
「僕、Yゴールドポイント貯まってるから。まとめて払うね。で現金でちょうだい。」
我孫子は手の平を河合に突き出す。
「あ、すみません。俺、現金持ち歩いて無くて。キャッシュレスだから」
我孫子は顔を真っ赤にして怒る。
「えー、なんでよー。僕だってそうだよ。僕はそもそもポイントで買うからこんなに買い込んじゃったんだよ。君が立て替えたら僕は現金で返さないといけないじゃないか。ふざけんな。そうやって僕にはじめからおごられるつもりだったんだな。セコい男は嫌われるぞ。この金なしキャッシュレス野郎!」
何だ?こいつは。
自分も現金もってないくせに
なんで俺が怒られないといけないんだ。
河合はだんだん腹が経ってきた。
我孫子はまくし立てる。
「僕はこないだSAEKOのメモリアルボックスをここで買ったんだよ。だから3,000ポイントもたまってるわけ。結婚して引退しちゃうSAEKOのね。傷心の僕の気持ちにもなってよ!」
そこで河合は我に返る。
「あ!SAEKO、そうだ!早くSAEKOに連絡しないと」
我孫子の目が輝く!
「え!?何々、そんな急いで水着の生写真にサインしてもらえるの?うれしー。すぐ連絡して!じゃあもうしようが無いな。君のその130円の発泡酒一本なら、僕のポイントで払ってあげてるよ。このご恩は一生忘れるんじゃ無いよ」
我孫子は念を押して、青いクマの顔の形のポシェットから小さなジッパー式の財布を出してYゴールドポイントで支払った。
「誰も水着の生写真とは約束してませんよ」河合はぼそっとつぶやいた。