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平日昼間の中年男 #2

平日昼間の中年男 #1

心にざらっとした、それでいて湿った布が触れた。

心臓をこすられているような。息が苦しい。

「何で、そんなものを賭けて、お前と勝負しないといけないんだ。」

男は飲み込まれそうになるのをこらえ、大きな声で言い返す。

店員はニヤリとする。

「怖いんだろう。もう勝負は始まってるんだ。君はすでに恐怖に飲み込まれている。そうやってこれまでも逃げてきたんだろう。この中年野郎」

男は思わずレジカウンターに両手を思い切りたたきつける。

「お前だって、みすぼらしい中年野郎じゃないか!こんなところでバイトして。みっともないと思わないのか。自分を見てから言え!」

身を乗り出し店員に詰め寄る。

「交渉成立だ」

店員は、レジカウンターから、背中をまるめていそいそと表に出てくる。

小太りで背も小さく背中も丸まっている。いかにもしょうもなさそうな奴だ、こういう奴がちゃんと働いている人達をネットで誹謗中傷したりしているのだろう、と男は思った。

店員は廊下を歩きはじめる。

そして振り返り男に尋ねる。

「君は、人生は何本勝負だと思う?」

店員の後ろについて生きながら、男は質問の意味を考える。

店員は古くくたびれて汚れた、あまり衛生的とは言えないドリンクバーに立ち寄る。

「この機械のドリンクは飲まない方がいいよ。もう何年も前から掃除なんてしてない。少なくとも僕がバイトに来てからは一度もない。いつのドリンクか分からないから。20年はそのままなんじゃないかな。とっくに腐ってると思う。そっちの冷蔵庫のペットボトルの方がマシさ」

冷蔵庫を指さす。

「この封が開いてるペットボトルがか?とんでもない店だな」

男は、汚れで曇ったガラスショーケースの冷蔵庫を見つめる。半分くらい残った2リットルのペットボトル達。

「無料だからね。それより君、人生は何本勝負だい?」

男は、ペットボトルを見つめる。ウーロン茶、コーラ、オレンジジュース。

一番マシなのは、コーラだろうか。糖分が多い方が腐らないような気がする。

いや、やはりそこは除菌作用があるウーロン茶か。

オレンジジュースならもしかして、ちょっとは新しいという可能性も?

ん?質問?人生は何本勝負?

「人生は、3本勝負だろう」

男がぼそぼそと小さな声で答えた。

すると店員は、背中をのけぞって大きな声で

「かーっ!そこまで貧乏くさくて保守的な男とは。そんなことだからここまで負け越してきたんだよ」

頭に血が上る。今にもこの店員を殴り飛ばしそうだ。

しかし、男もだんだん、この状況に慣れてきた。

「うるさい。さっさと部屋へ案内しろ」

男は、ドリンクバーの横にあった手洗い場の水道の蛇口から、グラスに水を注ぐことにした。

注ぐ前にとりあえず水でグラスをよく洗うことは忘れなかった。

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平日昼間の中年男:居場所がない中年のための短編小説

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